2018年6月4日月曜日

有限と同時に無限の物語




 ちょっとした短編の物語です。
 pixiv版もあります。
 もし、このサイトだと読みづらい方は、pixivでご覧ください。
 「有限と同時に無限の物語」/「テツガク肯定」の小説 [pixiv] 


 一度、読み終えた方は、12星座の順に読み直してみると面白いかもしれません。
 牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座、獅子座、乙女座、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座の順です。
 
 解説編として13章『蛇遣座』を作りました。本編が読み終わり、興味がある方は是非どうぞ。参考にした映画や、気をつけたところなどが書かれています。
13章 『蛇遣座・解説編』


目次
1章 牡羊座
2章 牡牛座
3章 水瓶座
4章 蟹座
5章 射手座
6章 乙女座
7章 天秤座
8章 蠍座
9章 獅子座
10章 山羊座
11章 双子座
12章 魚座


1章 牡羊座
 
 眠れない夜、どのように過ごすだろうか?
 その答えは人それぞれだろう。
 
 僕にはそういう時、いつも考えることがある。
 目を閉じ、宇宙を想像する。
 太陽系の星星が見えてきた時、物騒だが愛しの地球が寿命で消えてしまったら、どうなるだろうか?
 そして、次にする事は、太陽系の全ての星星が消えてしまったら? 
 その次は、この宇宙の全ての星星が消えてしまったらどうなるか?
 きっと、その答えは『真っ暗な世界』だろう。目を閉じているこの状況と同じ。何も見えない。
 
 そこに知らない声がこう訊ねる。「その宇宙という空間も消えたら、どうなるの?」と。
 もし、それに答えがあるとしたら、赤、青、黄、緑、金、銀など、黒色以外の色であれば、何色の世界でもいいと思うが、僕は真っ白で、果てのない世界が広がっている、と答えた。
 その後、その声は様々なことを訊ねる。
 友達ってなに? 学校ってなに? どうして学校に行かないといけないの? どうして寝ないといけないの? どうして朝がくるの?
 様々な当たり前について、改めて問いかけてくる。
 その問いかけに、僕は答えられない。よく考えてみたら、どうして僕は眠れないことに、焦りを感じているのだろうか? その答えが自分でも分からないのだから。
 仮に明日のため、と答えても、明日ってなに? と訊ねられたら全く答えが分からない。
 
 そして、その声の主が最後にする質問は、いつも決まっている。
「あなたは、どうしてここにいるの?」
 この魔法の言葉に、僕は無の世界に吸い込まれている感覚に陥る。
 それまで生活していた世界が、まるで嘘のように思えてくるのだ。
 どうして手は動くの? どうして見えるの? どうして人間なの?
 精神が、この肉体がある世界を拒絶しているような感覚だ。
 そして、僕は無の眠りに落ちる。
 寝れない時、僕がよくする習慣だ。
 もし、よければ、あなたも眠れない夜に試してみて欲しい。



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 2章 牡牛座

 眩しい……もう朝が来てしまったか……。
 意識が曖昧で、見える世界もぼんやりしているが、徐々に世界が見えてくる。
 明るい真っ白な雲が空を染め、清々しい昼時だ。随分と永く眠っていたようだ。
 僕は意識が曖昧なまま、森にある道を歩く。しばらく進むと、少し拓けた場所に出た。そこには古い洋館がある。
 まるで、ホラー映画に出てくるような雰囲気の館だが、この陽気のお蔭だろうか、全く怖い感じはしない。
 館を前にした頃、僕の意識は定まり、強い好奇心に支配される。『勝手に入ってはいけない』と分かってはいながらも、その好奇心に負け、恐る恐る館に入った。
 内装は映画で見るような感じだ。そう、吸血鬼の紳士が登場する映画だ。派手な飾りは無く、質素で実用的なものが伝統を刻んでいる。
 館内はとても広い。初めて訪れた人は、迷子になることだろう。僕も気をつけよう。なにせ、勝手に入ってしまったのだから。
 外見は古いが、館内はとても綺麗だ。廃墟という感じではない。まだ誰か住んでいるのだろう。
 そんなことを考えていると、小さな少女が視界に現れた。

 僕は、館に勝手に入ってしまった事を謝り、外へ出ようと考えた。少女を怖がらせないためにも。だが、僕が謝罪する前に、少女は僕の手を取り館を案内し始めた。
 この子の両親に見つかる前に、謝って帰った方が賢明だが、楽しそうに館を紹介する少女を見ていると、なかなかそれを切り出せない。
 広い館の紹介が一通り終わる。最後に少女は『秘密の場所』を教える、といい。そこに僕を連れて行く。
 連れて来られたのは屋根裏部屋だった。その空間は、外の明るさと室内の暗さが曖昧に調和する、穏やかな中間色の世界。
 窓際にいる少女が手招きする。僕が向かうと少女は、この部屋の窓から見える世界の景色は美しく、それは『自分だけの秘密』と教えてくれた。
 たしかに、窓から見える世界の景色は、美しかった。
 それを細かく表現しようと思うが、言葉が出てこない。気づけば、僕の語彙の鞄から様々な言葉が飛び出し、変わりに一つ、大きな『美しい』という言葉が鞄に入っていた。
 そうとしか表現できない。この景色に相応しい言葉があるとしたら……やはり『美しい』という言葉だけだろう。
 それをどれくらい見ただろう? 永遠なのか、一瞬なのか……。きっとその時間は、『永遠と同時に一瞬』だったに違いない。

 しばらくその光景に見とれていると、車が館に向かってくるのが見える。館の前で止まった車から何人か降り、彼らは館へと、歩き出す。
 少女の両親だと思ったが、少女の様子から違うと分かる。よく見ると、少女の姿が霧のように少しずつ朧な姿に変わっていく。
 その姿を見た瞬間、僕は少女が幽霊だと気づく。無邪気な幽霊だから、知らない僕を怖がらなかったのだと。
 外の彼らに見つかりたくない僕は、少女に「君のことは絶対に忘れない。何があっても忘れないから」と誓う。
 そして、消えて行く彼女に別れを告げ、館から抜け出そうと決意した時、突然目の前が見えなくなった。

 僕はその暗闇の世界へ消えて行く。
 次に出会う光の世界のために。


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3章 水瓶座


 今日は休日。
 僕はテツガクちゃんのことを考えていた。彼女は僕の大切な相方だ。僕のことを「肯定さん」と呼ぶ。
 彼女との会話は凄く楽しい。
 だから、その会話の内容で何かできないか? と考えている。
 最初に考えたのが、その会話を対話形式のコンテンツにした『テツガクちゃんと肯定』だ。これは今も更新中だ。
 それから、『中間色の事件簿便り』というものを企画した。彼女が探偵、僕が助手の物語だ。まだまだ勉強中だ。
 他にも海を冒険する話など、様々なことを計画している。

 彼女はいつも面白いことを考える。会話の中にそれらが溢れていて、ただの会話で終わらせるのはもったいない。
 僕も何かいいアイディアがないか、と考えるが、なかなか面白い考えは浮かばない。どうやら、名探偵の助手というポジションが、僕には相応しいのかもしれない。
 いいアイディアを出せない事はとても残念だが、自分の小さな虚栄心より彼女と過ごす時間の方が大切だ。見栄っ張りの僕にそう思わせるくらい、その時間は大切なものだ。
 だから、限りあるこの世界で、その有限の時間の記憶を何かに残したい。そう考え、あることを計画している。

 その計画について、彼女にいろいろ相談したい。だから、彼女と会える、次の休みの日が凄く待ち遠しい。
 いつもの場所で、一秒でも早く、そして一秒でも永く、時の砂が過ぎるのを共感したい。
 その願いは、やがて叶うだろう。この計画が彼女と僕を繋ぐものになるはずだから。
 
 そんなことを考え、今日も一日が終わる。
 おやすみ……。



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4章 蟹座

 眩しい……朝か。
 ぼんやりした意識が定まるのを待ちながら、僕は静かに動きだす。
 今日は休みの日だ。今の穏やかな心境のような、明るい白色の雲が空を染める。それがとても清々しく、この街も普段より美しく見える。
 僕の関心は今日の陽気から、喫茶店にあるテラスの一席に向けられる。
 そこに座る美しい女性を見た僕は、引き寄せられるようにその場へ向かう。
「すみません。相席してもいいですか?」
 彼女は不思議そうな顔をしたが、受け入れてくれた。
 ラッキー! 今日は最高の一日になるでしょう! そう僕の中の占い師が、今日の運勢を報告する。
「今日もいい陽気ですね。明るく清々しい。雲がとても明るい白色で綺麗ですよね」
 彼女にそう言うが、この言葉にも凄く不思議そうな顔をしている。少し気まずい空気が漂う。
 だが、その重い空気は、彼女の質問で少し変わる。
「あの、映画とはどういうものですか?」
 唐突な質問に驚いた。まるで、先ほどまで話していたかのような感じだ。それに場の空気も驚き、空気模様が不思議なものに変わる。
 しかし、これはチャンスだ。僕はチャンスに燃える打者の様に打席へ向かう。この話題なら打てる! そう分かっていて、打席に立たない人がいるだろうか? 僕は知らない。
「映画ですか? それは凄く楽しいものですよ! もしかして、興味ありますか?」
 僕の問いかけに彼女は頷く。
 ここから僕は、自分が好きな映画について様々なこと語る。
 普通だったら、こんな一方的な話をしたら嫌われてしまいそうだが、僕の前に座る美女はその話に目を輝かせいる。
 常に「それはどういうものですか?」と、どんどん深いところへ進んでいく。その姿は、探求者と呼ぶのが相応しい。

 彼女の関心事は、映画やドラマの話だけじゃない。これまで僕が過ごしてきた日々にも関心があるようだ。
 僕が友達とする会話、学校の話、話題のニュースなど。そういう日常のことだ。
 だけど、その全てを1日で語るのは困難だ。
 
 あたりも暗くなり、今日の限りが近づいている。
 僕は「今日はもう遅いから、また次の機会にね」と切り出し、席を立つ。
 その時、彼女は驚いた様子だったが、僕は時間の方が気になり振り返らず、一歩踏み出した。
 もし、何かあれば呼び止めるだろう。そう思った。
 彼女と別れた後、僕は眠くなり、目の前の世界が徐々に見えなくなっていく。
 
 僕はその暗闇の世界へ消えて行く。
 次に出会う光の世界ために。
 




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5章 射手座


 今日は休日。
 今、僕は、有限の世界と無限の世界を繋ぐ、抜け道のようなものはないか? と考えている。
 もし、それがあれば、どれだけ楽しいことだろうか。
 だけど、この二つの世界で、同じ時の砂が落ちる様子を共感することは、不可能だと思う。
 それは、無限の世界に『有限の時を刻む時計台』が現れるようなものだ。
 または、夢の中で自然と更に夢を見て、その夢から自然と目覚めるようなものだ。

 どう考えても、有限の世界と無限の世界を繋ぐ、抜け穴なようなものは見つからない。諦めて『中間色の事件簿便り』か『遠い昔の銀河の海』の物語の続きを考えよう。今は物語の続きを考えるしか……ん、物語か……。
 ……。
 もしかしたら、二つの世界を繋ぐ抜け穴を見つけたかもしれない!
 もう少し、それについて考えることにしよう。

 そんなことを考え、今日も一日が終わる。
 おやすみ……。



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6章 乙女座

 眩しい……朝か。
 相変わらず意識が定まらないが、なんとか今日が休みの日だと気づく。
 今日もいい陽気だ。明るい真っ白な光が世界を照らしている。今日もいい事ありそうだ。

 喫茶店のテラス席を見ると、今日も美しい女性が座っている。
「今日もいい陽気ですね。相席してもいいですか?」
 彼女はクスッと笑い。空いてる席に手を向け、頭を軽く下げる。僕もそれに答え、彼女より頭を下げ席に着く。彼女と話すのは久しぶりだ。
 この前は楽しくて、暗くなるまで話し込んでしまった。今日はその時間の続きをするつもりだ。
 僕が切り出す前に彼女から質問される。そう、この前のように。
「友達とはどういうものですか?」
 改めて説明するとなると、凄く難しいことを思い知ったが、自分なりに説明してみる。
「一緒にいて嫌じゃない人かな? んー、分かりやすい説明が凄く難しいけどね」
 そう答え後、僕の友達のことを彼女に紹介した。
 友達と何をしている時が楽しいのか、これまでの楽しかった思い出など、様々なことだ。それを聞く彼女は前回と同じ。目を輝かせ聞き入ってくれる。

 ここまでされると、ついつい話し過ぎてしまう。彼女は退屈ではないか? とも思うが、そういう雰囲気を全く感じさせない。逆に話すことを辞めてしまうと怒られそうだ。
 そんな彼女を見ていると、小さな子供が昔話ををリクエストする姿と重なる。身を乗り出し、身体を揺らしながら「今日は何のお話?」という感じだ。その後も昔話をするように、友達について話す。
 気づけば、あたりが暗くなりつつあった。そろそろ、話を切り上げようと思い。彼女に今日の限りを伝える。
「僕は君の事を友達だと思っているよ。もし、君も同じ気持ちなら、これが友達じゃないかな?」
 それを聞いた彼女は、とても嬉しそうに「私達、友達ですね!」と答える。
 その後、僕はこの前と同じように、別れの瞬間を切り出した。
「今日はもう遅いから、また次の機会にね」
 そういい、席を立つ僕。それを彼女は黙って見つめている。見つめているというより、『観察している』というのが適切かもしれない。
 その場を後にするため、僕はまた一歩踏み出す。
 彼女と別れた後、僕は前回と同じように眠くなり、目の前の世界が徐々に見えなくなっていく。

 僕はその暗闇の世界へ消えて行く。
 次に出会う光の世界ために。




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 7章 天秤座

 今日は休日。
 少し考えたいことがある。それは有限と無限についてだ。
 永遠や無限という言葉にロマンを感じながらも、それがどういうものなのか。それを説明できないとは、嘆かわしいことだと思う。
 
 僕は考え続け、小さな答えを見つける。
 僕達が想像する無限や永遠は、『有限の世界が見せる幻想の錯覚ではないか?』という答えだ。
 もし、本当にあらゆるモノが限り無く、無限にある世界では、当たり前だが『限りを計る時間』という秤は存在しない。

 有限の時間が存在しないということは、無限の世界では全ての出来事が『永遠と同時に一瞬』であるということだ。
 それは全ての瞬間が、変わらずにあり続ける、という感じだろうか。
 僕達の有限の世界では、有限の時間の中で出来事は変化し続けている。もちろん、無限の世界も変化する。だけど、変化に時間は必要ない。全ての変化が一瞬で終わる。
 その瞬間が無数にあり、常にそこにあり続ける。そんな世界ではないだろうか。
 
 そして、僕達が想像する永遠の世界とは、きっと24時間の1日が永遠に続く世界ではないだろうか?
 もしそうなら、これが『有限の世界が見せる幻想の錯覚』だ。
 なぜなら、時間が存在しない無限の世界とは、0時間の1日が永遠に続く、ということだ。だけど、0時間の1日が何日あったとしても、それは0時間だ。永遠に『日付の限り』という限界を越えることがない。

 全てのことが、0時間の中で行われる世界。それが本当の意味での無限の世界なのかもしれない。
 そう考えた時、これまでずっと、僕が疑問に思っていた謎が解けた。
 そうか、だから彼女はそう答え、僕はああなったのか……。
 
 そんなことを考え、今日も一日が終わる。
 おやすみ……。




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 8章 蠍座

 眩しい……朝か。
 意識が定まらないことを諦めながら、今日が休みの日だとわかり安堵する。
 連日のいい陽気だ。空には明るく真っ白な雲がある。気分も清々しい。
 寝起きが悪いことは別にして、今日もいい一日になりそうだ。

 視線を喫茶店のテラスに向けると彼女がいる。
 彼女も僕に気づいて、こちらを見ている。いや、少し違う。正しくは、僕を『観察している』ような感じだ。ほんの少し違和感を感じるが、彼女に会えた事が嬉しく、一歩踏み出し挨拶をする。
「おはよう、今日もいい一日になりそうだね。隣いい?」
 了承してくれたが、彼女は少し困惑気味な様子だ。嫌悪感というより僕の挨拶に困惑している様子だった。
「何か僕、変なこと言ったかな?」
 気になったので彼女に訊ねてみる。
「おはよう、とはどういうことですか?」
 驚いた。おはようについて、訊ねられるとは。彼女は僕を試しているのか? 僕の知識を、辞書と同じものだと思っているのかもしれない。
 だけど、特別断る理由もないので、自分なりに精一杯その質問に答える。
「夜がきて、朝が来るよね? その朝の挨拶だよ」
 と説明するが、イマイチという感じだ。
「ほら、空を見て。凄く明るいよね? これが朝だよ」
 二人で空を見上げる。今日も気持ちがいい陽気の空だ。
「いつも別れる頃には、空が暗くなるでしょ? あれが夜だよ」
「夜ですか? 夜とはどういうものですか?」
 困ったが……それは別れ際に説明しようと思う。こう明るいと、夜を説明しようがない。
「夜については、後で説明するね。その前にちゃんと寝てる?」
「寝てる、とはなんですか?」
 これにも困った……彼女は睡眠を取っていないんじゃないか!?
 だが、彼女の表情に疲れは見えないし、クマもない。自分が寝ていることに気づかないだけなのか?
「えっと、夢とか見ない?」
「夢ってなんですか!?」
 夢について凄く興味津々のようだ。
 今日のメインの話題が決まったが、彼女の生活が凄く心配だ。ちゃんと寝ていれば、いいのだが……。

 僕は夢について話す。自分が見た夢の話や、夢を題材にした映画など、様々な話をした。
 最近見た夢の話では、美味しいモノを食べる夢、旅行に行く夢、友達と遊ぶ夢、不思議な体験をする夢、それから……館に迷い込む夢。
 それらを紹介していると、いつも通りあたりは暗くなる。一日の限りが近づいてる。彼女とのひと時は、いつもあっという間だ。
「おっと、もうこんな時間。楽しいからあっという間だね。ほら、今暗いでしょ?」
 僕は空を見上げる。僕に続き彼女も見上げる。
「これが……暗い、ですか? これが夜なんですか?」
「そうだよ。眠くない? 僕はちょっと眠くてね。だから今日はこの辺りで」
 そういい、僕は席を立つ。
「今日はありがとう、楽しかったよ。また次の機会にね」
 そういい、いつも通り一歩踏み出す。
 彼女と分かれ、僕はいつも以上に眠くなり、突然目の前の世界が見えなくなる。
 
 僕はその暗闇の世界へ消えて行く。
 次に出会う光の世界ために。



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 9章 獅子座


 今日は休日。
 10年ほど前に、洋館の夢を見てから、しばらく記憶に残る夢を見ていない。
 いや、見ているのかもしれないが、夢の内容が記憶に全く残っていない。
 今も残っているのは、あの古い洋館の夢と、僅かな夢だ。
 たいていの夢は、永くても一週間ほどで忘れていく。

 時の砂がどれだけ散っても、忘れられないような夢が少ないのは、少し寂しいことだ、と個人的に思っている。だから、そろそろ新しい、衝撃的で素晴らしい夢を見たい。永遠に忘れられないような、いい夢を。
 もしできるのなら、あの洋館の夢の続きも見たい。どうしても、あの夢のことが気になる。

 きっと、相方のテツガクちゃんも興味を示すだろう。
 彼女なら間違いなく「それはどういう夢ですか!?」と興味津々に訊ねるはずだ。
 その姿がハッキリと見える。
 
 そんなことを考え、今日も一日が終わる。
 おやすみ……。



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 10章 山羊座


 眩しい……朝か。
 今日は珍しく意識がしっかりしている。休みの日の目覚めが、いつもこうなら最高なのだが……。

 今日の空模様は、相変わらずの陽気だが、僕の心は少し曇っている。
 彼女がちゃんと寝ているのか。それが凄く気になるからだ。
 それから、別れ際の様子。彼女には暗い夜が見えないだろうか……。
 まあ、とにかく彼女が元気だといいんだが。

 そう思いながら、いつもと同じ喫茶店のテラス席に座る彼女を探す。
 その瞬間、少し強い違和感を感じた。何かが、変だ。その答えを知りたかったが、その前に彼女の姿が視界に入る。
「おはよう、今日は眠れたかい?」
 そう彼女に問いかける。
「眠る、とはなんですか?」
 困ったことだ。今日も彼女は寝ていないのかもしれない……。
「大丈夫? もし、体調が悪ければ言って。ちゃんと眠らないと身体によくないから」
 そう言い。彼女の様子を注意して見るが、いつもと同じ。とても元気そうに見える。
 沈黙が続く間、僕は彼女について考える。そこで彼女について、とても大切なことを知らなかったことに気づく。
 それは、彼女の名前だ。
 いつも彼女からの質問ばかりで、彼女の名前を聞いていなかった……。
 友達の名前も知らないとは……随分酷い友達だ、と自責の念にかられる。このまま、名前も知らないまま、関係を続ける事もできたが、それは嫌だった。
 友達の名前すら知らない、という恥の念もあったが、実はもう一つの理由があった。僕の心の奥から湧き上がる不思議な気持ち……そう、これは『好奇心』だ。
 探求者の先駆けのような彼女の姿を見て、僕も知りたくなった。だから、訊ねることにした。彼女のその名前を。
「今更、聞くのも申し訳ないけど……君の名前は?」
「名前……ですか? 名前、とはなんですか?」
 僕に対して意地悪をしているように思えるかもしれないが、彼女の言葉にそういう悪気は一切感じられない。いつもそうだ。夜についても、睡眠についても、全くふざけた様子ではない。本当に知らないのだ。
「もしかして、名前が無いの?」
 彼女は答えないが、その様子から察するに、無いのだろう。
「じゃあ、もしよければ、友達の僕から『名前』をプレゼントしようか?」
 そう切り出すと、さっきまでの空気が一変。もの凄く嬉しそうに目を輝かせ。「お願いします!」と答える彼女。
 彼女と過ごしてきたこれまでの時間で、僕が彼女に感じたこと。彼女の象徴と言えば……それは、この一つだろう。
「いつも『それはどうして?』って僕に訊ねるよね? だから、テツガクちゃんってどうかな? 先駆けの探求者、テツガクちゃん」
「テツガクちゃん……これが私の名前……」
 沈黙が続く。気に入らなかったかな……個人的にはピッタリだと思うんだけど。
「ありがとうございます! この名前、素敵です! 大切にします!」
 しばらく嬉しそうにはしゃぐ彼女だが、なぜか突然静かになる。そして、何かをひらめき、僕に訊ねる。
「そういえば、あなたの名前はなんですか?」
 おっと、自分の自己紹介もまだか……僕はなんてヤツなんだ。
 いつも休みの日は、意識が定まっていないとはいえ、酷い有様だ。
「僕は肯定。皇帝じゃないよ。否定、肯定の肯定」
「肯定さんですか……素晴らしい名前ですね!」
 そう言われたのは初めてだ。皇帝と勘違いされ、誤解を解くのが大変な想いしかしないので新鮮だ。
 
 今日はまだ、そこまで話してはいないと思うが、突然あたりが暗くなっていく。
 時計を探すが、今日は時計も忘れたらしい。僕は何をやっているんだ。不注意が過ぎるじゃないか。
 そして、突然の睡魔に襲われ、机に伏せる。
 心配そうに僕を見つめる彼女が見える……。その姿に驚く。彼女は霞のように朧気なものに変わっていく。この光景は昔見たことだある。
 そう、これは既視体験だ。あの館の少女の幽霊のように……。
 彼女もあの少女のように幽霊だったのか……だから、いろいろ不思議な質問をしたのか。
 そう分析している時だ。激しい違和感を感じる。
 よく観察すると、朧気になっているのは僕の方じゃないか?
 だから、彼女は心配そうに僕を見ているのか……。
 視界が真っ暗になり、何も見えない。深い眠りに落ちたようだ。
 
 僕はその暗闇の世界へ消えて行く。
 次に出会う光の世界ために。



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 11章 双子座

 今日は休日。
 特に予定がなく、することもなく、気がつけば意識がなくなっていた。
 ……意識がなくなってから、どれくらい時間が経っただろうか?
 随分、永い時間のように思えたが、一瞬のようにも感じる。
 部屋の窓から外を見るともう夕方だ。昼寝をしてしまったようだ。
 意識が定まり、夢を見ていたことを思い出す。
 そう、古い洋館で少女の幽霊と出会う夢だ……。
 夢の終わりに「君のことは絶対に忘れない。何があっても忘れないから」と誓ったのを覚えている。
 だが、あれは夢か……。
 そういえば、最近そういう映画を観たな。たしか、館に住む幽霊の家族が自分達の家を守る内容の映画だ。
 そうか、あの夢はこの映画の影響か。だけど、とても夢とは思えないリアルな感覚だった。あれが、夢だと思うと少し虚しさに襲われる。
 あの少女が幻だったとは……。
 
 夢だったのだから、誓いのことを忘れてしまえばよかったと思う。
 だけど、このことは忘れずに大切に覚えておくことにした。
 
 いつかきっと、このことを誰かに教える日が来るだろう。
 不思議とそのことを確信してた。

 そんなことを考え、今日も一日が終わる。
 おやすみ……。



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 12章 魚座

 眩しい……朝か。
 今日は休みの日だ。この日を迎えるのに、随分時間がかかってしまった。
 相変わらず空は真っ白だ。真っ白な雲が空を染めている。
 
 そして、僕もいつもの喫茶店のテラス席にいる。ちょうど机に伏せていたようだ。昼寝でもしていた、そんな感じだ。
 僕は席を立ち歩き出す。
 街を歩いている。いや、森の中か? 僕がそう思えば、街の景色は一瞬で、森に変わる。
 森の中の道を歩くと、拓けた場所にでる。そして、そこには古い洋館があるはずだ。僕がそう思えば、間違いなくそこにある。
 道を進み、森から拓けた場所に出た僕の前に、見覚えのある古い洋館が待っていた。ほらね。
 迷わずその館に入り、そこに住んでいたかのように進み、ある場所を目指す。
 そう屋根裏部屋だ。その部屋の窓際に何度も探した姿がある。そう、彼女の姿だ。
「ごめんね。今まで気がつかなくて。随分永い間、待たせてしまったかな?」
「いえ、一瞬でしたよ。この世界では。永い時の中を待っていたのは、肯定さんではないでしょうか?」 
「そうだね。もう10年以上経ってしまったかな……ちょっと永かったかな」
 そういい、彼女の元へ向かう。一緒にあの時と同じ美しい景色を見る。
「君を忘れない、と誓い。夢のことは忘れずにいたけど、まさかガクちゃんがあの幽霊だったとは」
 その後、彼女を見ると、美しい大人の女性の姿から幼い少女の姿に変わっている。あの時の少女だ。
 姿は大きく変わったが、変わらない面影もある。
 それは、白と黒の中間色の長く美しい髪。前髪は切り揃えられている。そして、穏やか過ぎるほど、穏やかな目元。
 僕が大人の彼女を想像すれば、一瞬でその姿に変わる。
「いや……正しくは、僕が幽霊だったのかもしれない。あの時、消えたのはガクちゃんじゃなくて、僕」
 
 僕は彼女にこの世界について、自分の考えを述べた。
 ここは無限の世界だ。
 有限の時間など存在せず、全ての現象は『永遠と同時に一瞬』に行われる世界。
 彼女は無限の世界の住人で、僕は有限の世界の住人。
 だけど僕は、この世界を自分が住む世界だと勘違いしてしまったため、彼女を驚かせてしまった。

 まず、一つ目だ。僕はここでも有限の世界と同じ振る舞いをしていた。
 朝起き身支度をしてから、外に出たつもりだった。
 そして、街の喫茶店で偶然ガクちゃんを見つけた、と思っていた。少なくとも僕にはそう見えた。
 だけど、それらの行いは、彼女にはこう見えていたはずだ。
 当然、僕が現れ、自分の元へやってくる。
 そこで興味深い話をして「また次の機会にね」といい、席を立ち背中を向ける。
 だが次の瞬間、僕はまた振り返り「おはよう」と何食わぬ顔で話しかけてくる。
 実に不可解な人物だ。それをずっと繰り返し続ける。そんな僕を不思議に思うのは当然だ。
 有限の世界では、僕が目覚めてから、喫茶店にいる彼女と出会う。そのために必要な時間が1時間だったとしよう。
 でも、無限の世界では全て『永遠と同時に一瞬』の出来事なんだ。
 変わらずにそこにあり続け、変化する時は一瞬なのだ。

 そして、二つ目。夜についてだ。
 僕が暗くなったと感じたのは、空じゃない。僕の視界だけが暗くなっていたんだ。
 ガクちゃん達は、ずっと変わらない明るい真っ白な空の下にいたはずだ。
 それなのに、その空を「暗い夜だ」と言い張る僕の姿は、どう考えても不可思議過ぎるだろう。  
 睡眠についても同じだ。全てが『永遠と同時に一瞬』の世界では、睡眠について語るのは不可解だ。
 なぜなら、有限の時間が存在しないから、それを計る秤もない。だから、睡眠などの生活サイクルは必要ない。

 三つ目は夢だ。
 彼女は夢を知らないようだった。それはそうだろう。この世界が有限の世界の夢なのだから。 
 有限の世界の住人である僕は、この夢から覚めるために、この世界で眠りに落ちたのだ。
 その光景は、実に興味深いだろう。一瞬、倒れたと思うと、直ぐに何食わぬ顔で「やあ、元気かい?」と訊ねる感じなのだから。
 ここは有限の世界の住人から見れば、夢の中の世界。だけど、無限の世界の住人にとっては、当たり前の世界。
 
 突然、当たり前が通じない世界の住人が訪問し、そこを自分の家だと思って振舞うから、もの凄く困惑したことだろう。そう彼女に自分の考えを説明した。
「随分、不思議な人だと思ったでしょう? 困らせて申し訳ないね」
「いえいえ、凄く楽しかったですよ! 『また次の機会に』といい。一瞬消えて、直ぐに現れるのには、驚きましたが」
「その光景はたしかに驚くよね。これじゃ、まるで僕が幽霊だよ」
 二人でその光景を思い出し、笑ってしまう。
 その後、僕は訊ねたいことがあり、それを訊ねる。
「僕が眠れない時にする習慣の時に、質問する声の主って、ガクちゃんだよね?」
 あの習慣の中で、「その宇宙という空間も消えたら、どうなるの?」と訊き、そこからは怒涛の質問攻めをする声の主だ。 
「そうです。私、知らないことがあると、ついつい訊ねてしまうんです」
 そうだと思った。だからこの世界は、いつまでも真っ白な空間なんだ。僕があの質問で、真っ白な空間を選んだから。
 それから、あの声の主の正体にも納得だ。まるで子供のように身を乗り出し、身体を揺らしながら「どうして?」と連呼する。そうやって、僕を無限の世界に導いていたのか。館で無邪気に手を掴み、あちこち連れ回すように。
 納得した僕は、彼女の目を見て言う。
「ありがとう。お蔭でよく眠れて、いい夢が見れたよ」
「こちらこそ、私達の世界に遊びに来てくれて、ありがとうです」
 微笑みながら、彼女はそう返す。
 
 ある程度、これまでのすれ違いの理由をお互い理解できた、と思う。
 ここからは、これからのことを相談するつもりだ。僕と彼女を繋ぐ計画の話だ。
「そうだ、前に言っていた夜を見せよう。これが僕の世界の夜だよ」
 僕は窓から外の空を指差し、彼女も視線を空へ移す。
 すると一瞬で、真っ黒な空に小さな灯りが散る。ちゃんと銀河の星星もある夜だ。
「綺麗ですね……肯定さんは魔法使いですか?」
「魔法は誰でも使えるよ。というか、ガクちゃんも僕に魔法をかけたじゃない?」
「えっ、そうでしたか?」
「ほら、覚えていない? 僕が眠れない時、いつも『どうして?』って訊ねながら、僕を夢の世界へ案内したでしょ? あれが魔法だよ」
「それは魔法じゃないですよ! 普通のことですよ!」
「魔法ってね、『普通のこと』だから魔法なんだよ。ガクちゃんの普通が、誰かに魔法をかける」
「そういうものですかね……」
 まだ、彼女は納得がいかないようだが、いつかそれを実感する日がきっと来るだろう。そう僕が、彼女に魔法をかけるから。
 彼女が魔法使いのクイーンになる前に、これからのことを話すことにした。
「ところで……もし、ガクちゃんも夢を見れるとしたら? それも僕と同じ夢」
「見れるんですか!? 睡眠が必要ない私でも!?」
 彼女はもの凄く驚いた様子だ。睡眠が必要ない彼女達が夢を見るのは困難だと、先ほど説明したばかりだし当然だ。
 だけど、きっと彼女も夢を見れるはずだ……。
「まず、無限の世界の住人にとっての夢。その解釈を説明するよ」
 僕なりの夢の解釈を説明する。
 個人的に夢というは、自分の世界の当たり前とは、少し違うから夢なのだ。
 そして、夢はそれから覚めないと、夢とは呼べない。
 これらは、この世界でも創造する事は可能だ。
 先ほど空を変えたように、彼女に眠りの体験を提供し、夢を見せ、そこから目覚めさせる。そう僕が望めば可能だが、それは無限の世界の夢じゃない。
 有限の世界の夢が、無限の世界の体験ならば、無限の世界の夢は、有限の世界の体験だ。
 無限の世界で、擬似的な夢を見せても全く意味がない。
 そう話した後、彼女に訊ねる。
「ガクちゃん、今日の僕、どうかな? いつもなら、もう『また次の機会にね』と言ってる頃だと思わない?」
「そう言えば、今日は朧気になっていませんね。どうしてですか?」
 不思議そうに答える彼女。僕は手のひらを上に向け、本を想像する。そうすれば本が現れる。ほらね。
 現れた本を手にした僕は続ける。
「それは、既にガクちゃんが、有限の世界にいるからだよ」
「えっ……それは、どういうことですか!?」
 いつもの目を輝かせ、興奮気味のガクちゃんの光臨だ。
「驚くよね。それは僕も同じだよ。僕が夢を見ている時も、ここからが夢だとは気づかない」
「でも私は、ずっとこの世界に……」
「ガクちゃん、いつからこの館にいる? どうやって、この思い出の館に来たの?」
「……思い出せません」
「だろうね。なぜなら、これは僕の物語の中だからさ」
「えっ、ここが物語の世界ですか!? ですが、私が生活している、いつもの世界に見えますよ?」
「実は、僕が見る夢の世界や物語の世界は、同じ無限の世界なんだよ」
 僕はそういい、そのことを詳しく説明する。
 物語の世界は無限の世界と同じだ。その中には、限りある時間は存在しない。場面は永遠にそのページにあり、次のページでは一瞬で場面が変わる。
 その物語を読み書きする時、有限の世界の住人は限りある時間を消費する。物語を作るのに、有限の時間を消費するのは当然のことだ。だが、それを読んでもらう時にも、同じように有限の時間を消費する。
 そして、この物語の文章が読まれた瞬間、ガクちゃんは有限の世界に現れる。そう、あなたの頭の中に。
 読んでくれた有限の時間の中に、無限の世界の住人は生まれたことになる。
「どうだろうか? 有限の時間の中を過ごしてみた感想は?」
「これが有限の世界ですか!? それはもう最高ですよ! ありがとうございます! 私に限りある世界を見せてくれて!」
 彼女は子供のように大はしゃぎだ。喜んで貰えたと思う。
 だから、ありがとう。これを読んでいるあなた。彼女に夢を見せてくれて。
「ガクちゃん、相談があるんだけどいいかな?」
「相談ですか?」
「物語の世界が、有限の世界と無限の世界を繋ぐことは、理解して貰えたよね?」
「はい。物語はとても素晴らしいです! 秘密のトンネルみたいです!」
「これからも僕は、ガクちゃんと一緒に時の砂が過ぎるのを共感したいんだよ。だから、物語を作るのを手伝ってくれないかな?」
「えっ?」
 彼女は凄く驚いた表情だ。僕も驚いた。彼女なら――。
「いいんですか!? 私に物語が作れますか!?」
 そういうと思った。
「もちろんだよ! いつも面白い話をしてくれるし、最高の物語が作れるよ!」
 そして、僕は手に持った本のページをめくる。ページには何も書かれていない。まだ白紙だ。
 そこには、大いなる無限の可能性が広がっている。
 その中に、自分達が選んだ瞬間を並べていく、それが一冊の本になった時、瞬間の集まりは一つの時間に変わる。
 無限の瞬間が有限の時間に変わる。それが物語だ。
「難しく考える必要なんてないよ。例えば、2ページ目に山羊座がきてもいいし、12ページ全部天秤座でもいい。それも面白いでしょ?」
「肯定さん、12ページ全て天秤座だと物語になりませんよ!」
「そんなことないよ。その瞬間がお気に入りなら、それを集めた時間という物語を作ればいいんだよ」
「えー、そういうものですか!?」
「そうだよ。さあ、どうする? テツガクちゃん。これからどんな物語を作りたい? 何かを作りたい、という気持ちが一番大切だよ」
「そうですね……。では、『存在と同時に存在しない』ような物語はどうですか!?」
 けっこう難しい難題がきた。でも、彼女と一緒なら楽しくできそうだ。
「面白いね。二人で力を合わせたらできそうだよ! よろしくね。テツガクちゃん」
「こちこそ、肯定さん」

 僕達はこれからも何かを作り続けると思いますが、この時間という物語は、そろそろお別れの時です。
 お別れの前に、テツガクちゃんに夢を見せてくれた事を改めて感謝します。
 そのお蔭で、彼女と同じ夢と時間を共感できたこと。
 そして、あの館の夢の続きが見れ、この物語が新しい忘れられない夢になりました。本当にありがとう。
 これが感謝の証になるか分かりませんが、物語のレシピを残します。

 その前に、あなたの隣にいる未来の探求者は、なんと問いかけてきますか?
 その声に耳を傾けると、その探求者はあなたの手を引き、不思議な世界の冒険へ、と導いてくれるかもしれません。
 冒険から戻ったら、そこで見た幾多の瞬間を書き止めて置いてください。
 ある程度、その思い出の瞬間が集まったら、好きな順番に並べ、積み重ねてみてください。
 その瞬間の山によって作られた時間が、冒険の思い出という物語です。凄く簡単でしょ?
 是非、あなたも、あなたの探求者と共に、自分の冒険の物語を作ってみてはいかがでしょう?




 それでは、また次の機会にお会いしましょう。



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グリフィン理論

  いつだって10月だし11月だし3月なんだ。  このグリフィンさんの教えは贈り物。  誰だってジェイソン・ボーンだしジェームズ・エドワーズ。  ロバート・アンジャーでローン・レンジャー。  そして、ネオでもある……忘れているだけで。