いと不可思議な幻を信じている

 

　私達は、いと不可思議な幻を信じている。

　同じ似た者同士。

　だけど、自分だけは『ゲンジツ』や『シンジツ』を知っている。

　そう、覚えが錯じっている、錯覚の中で笑っている。

　変な癖を教わったけど。やっぱり、それも愛おしい。 

 

 

 

 

テツガクちゃん
　明日のナージャさんに会えなければ。
　昨日のシェリルさんにも会えません。

　そんな私達は、変わらずに今日も。
　今、この瞬間に囚われています。

　そんな事実に気づいてしまいました！　私！


肯定
　今、この瞬間も、視点を変えれば洞窟だね。
　そして、その洞窟に囚われた僕達。

　洞窟の外には、昨日や明日がある。
　そう信じている。

　時計の針が23時59分50秒を示す。
　あと、10秒で。
　明日にいるナージャさんに会えて。
　昨日のシェリルさんは一昨日へ向かう。

　本気でそう信じていて。
　その瞬間を楽しみにする。

　だけども、残念。

　11秒後、世界は変わらず。
　やっぱり、ナージャさんは明日にいて。
　シェリルさんは昨日にいて。
　僕達も今日にいる。

　永遠に変わらずに。


テツガクちゃん
　あのまま、このまま、そのまま。
　我がままに思いのままに。
　今、この瞬間のままです。

　誰も未来へ行ったことがありません。
　未来どころか、明日に待つナージャさんにも会えません。

　誰も過去へ行ったことがありません。
　過去どころか、昨日に待つシェリルさんにも会えません。

　ずっと、同じ。
　今日、今、この瞬間から逃れられません。


肯定
　そう、逃れられない。
　それなのに。
　健気に明日や昨日を大切にして。
　未来や過去を信じている。

　その様子は、いと不可思議だけど。
　どこか愛おしいね。


テツガクちゃん
　愛おしいですね。

　見えませんし、行ったこともない。
　聞こえませんし、触れることもできない。

　それでも、過去未来、その過未の領域。
　その幻を信じている。

　今、この瞬間の囚人です。


肯定
　それから、よく笑う囚人だね。

　自分が信じる、それ以外の幻。
　見えないし、聞こえないし、触れない。

　行ったことがない、未知のフロンティア。
　
　そこで待っている。
　ドン・キホーテやハックルベリー。
　それらを信じる人を笑う人。

　同じ、いと不可思議な幻を信じている。
　同じ、似た者同士だけど。
　自分だけは『ゲンジツ』を知っている。

　そう錯覚しているように。
　様々な覚えが錯じってしまった。
　そんな混沌の中だから、それも仕方ない。


テツガクちゃん
　仕方ありませんね。

　気づかないふりをして。
　忘れたふりをして。
　どこかの窓辺へ。
　きっと、あれは伝説の過未飛行機です。

　見えませんし、聞こえません。
　そういう幻を、誰もが信じているのでしょう。
　いと不可思議な幻を。

　それなのに。
　他の誰かが信じている幻。
　それを笑ってしまう、変な癖を。

　どこかで教わってしまった。

　いと不可思議で。
　ほんの少し愛おしい癖です。
　
　そろそろ、それとはお別れの時空ですね。


肯定
　お別れだね。

　どこかの、いと不可思議な時空で。
　また、会いましょう。

　その時は、その癖も許せる。
　大きな愛おしさを見つけるよ。


テツガクちゃん
　見つけてしまいましょう！
　慈悲深い悪魔のように。

　あなたは、どうですか？
　まだ自分しか知らない。
　いと不可思議な何か。
　それに出逢いましたか？

　明日や昨日のように。
　見えず、聞こえない。
　本当は、存在などしないのかもしれませんが。
　それでも、どこかで存在している、と信じている。

　そんな幻のような何かです。

 

 

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それでは、また次の機会にお会いしましょう。