2020年1月20日月曜日

ネタだから


 遠い昔、遥か彼方の時代。
 『ネタとすし屋と本音』という昔話があったそうな。
 人気のすし屋の主人がネタを握るの辞めて、代わりに握ったのは……。





テツガクちゃん
 肯定さん、『ネタとすし屋と本音』という昔話を知っていますか?
 最近、私が出会った、とうの昔の話なのですが。


肯定
 いや、初めて聞いたよ。
 是非、その昔話を聞かせてよ。
 どんな話なの?
 
 永くなっても構わないからさ。


テツガクちゃん
 いいんですか!?
 それでは、この永く長~い昔話を紹介させていただきますね!



 遠い昔、遥か彼方の時代。
 人々に愛された、おすし屋があったそうな。
 様々なネタが並ぶ、そのお店で一番人気のネタ。
 それは、牛のたたきでした。

 他のお店には並ばない牛。
 それが食べられる、おすし屋。
 そんな噂が広まれば、人の気も集まり、一躍して人気店の仲間入り。
 その最高潮のある晩、お店に御上の人が訪ね、主人に了見を訊ねました。


 御上の人:
 将軍様の命で、動物は魚介以外、食べてはならぬ、となっている。
 だが、この店では牛の肉を並べているらしいな。
 主人、これはどういう了見だ?


 主人:
 はっ、これはその……ネタでして。
 決して、御上に逆らうつもりでは。
 
 この方が人の気も集まって、人気店になれますから。
 人気店になれば、御上にお納めするお金も増えます。
 いくらでもお納めするので、どうかご容赦のほどを。

 
 御上の人:
 ほお、すし屋が御上を買収しようというのか?
 人気が出て、随分と偉くなったものだな。


 主人:
 滅相もございません。
 ただのすし屋です。
 そして、これもただのネタです。


 御上の人:
 ネタ、ネタと……。
 主人の了見を述べよ、と言っておるだろうが。
 
 それとも何か。
 すし屋だからネタだと言えば、全てが許されるとでも思っているのか?

 すし屋だろうがネタだろうが、許されぬものは許されぬ。

 打ち首じゃ! というのは少し古過ぎるか。
 ここは、将軍様の命どおり、島流しじゃ。


 そう御上の人は店主に告げて、店を出た。
 後日、そのお店は違う店になっていた。
 そして、あの店主はというと……東の果ての大きな国。
 そこで、一番人気のおすし屋になっていた。

 ネタだから、その一言で、全てが許されることはなく。
 しかし、別の場所では何かが許されるのかもしれない。

 ネタだから。
 その呪文は、想像しているほど万能なものではない。
 その薄い呪文で何かを隠してしまう。
 それは、少し勿体ないこと。

 そう、島流しにあった主人は気づいたそうです。
 そして、言い訳をつくるネタをしまい。
 代わりに手にした、本音。
 それを隠すことなく、表に出せたから集まった人の気。

 東の果ての大きな国。
 そこに住む人と主人の本心の音、本音。
 その何かが似ていたから、何かが許されたのでしょう。

 ネタを握るより、本音を握る。
 唐よりも昔にあった、人気のおすし屋の話です。


肯定
 そんな昔話があったんだ。
 面白いね!

 『ネタとすし屋と本音』か。
 面白い話を聞いたらお腹がすいたね。
 
 大将、本音を握ってよ。
 嘘の影が消えちゃうくらいの本音をさ。


テツガクちゃん
 がってん承知の助です!
 今、肯定さんが握って欲しい本音は……。

 わからないですね。
 ですが、わからないことがわかっている。
 そんな『Mr.ジョーンズ』ですね。

 あなたはどうですか?
 握りたい本音がありますか?

 きっと、それは、どんなネタよりもステキで美味しいものです。





それでは、また次の機会にお会いしましょう。








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砂漠でアマゾンを探している

 多くの人は砂漠でオアシスを探している。  平和ってオアシスを信じて、求めて彷徨う。   隣にアマゾンがあっても、砂漠の中で探す。  今、本当に欲しいもの、ITを忘れかけながら。  砂漠のオアシスなのか、豊かな水源があるアマゾンなのか。