2021年7月21日水曜日

鏡が思い出させてくれた


 鏡は前後を反対に映す。
 そんな考えに出会って。
 忘れていたことを思い出した。
 文字は後ろから覗けば、左右が反転して見えることを。
 きっと、あの鏡は忘れていた幻を映し出す。





肯定
 ずっと、鏡は。
 左右反対に映し出すって。
 思ってた。

 たぶん、そう教わって。
 それを信じて、そう思ってきたから。

 だけど、前後が反対に映る。
 そんな考えもあるらしいって。
 最近、知ったよ。


テツガクちゃん
 前後がですか?

 ……ですが、前後と言われても。
 イマイチ、ピンときませんね。

 普段の生活では。
 前後をあまり意識しないからでしょうか?


肯定
 そうかもしれないね。
 上下左右だけを意識するから。
 前後という概念を忘れていた。
 
 それから、書いた文字を。  
 後ろから透かして覗けば。
 左右が反転することも忘れていた。

 前後が反対ということは。
 左右反対と似ているけど。
 ほんの少し違うみたい。

 ほら、ガクちゃんが気づいた、アレ。


テツガクちゃん
 鏡に映る誰かとは握手ができない。
 あの現象ですね。

 文字が左右反対に見えても。
 鏡に映る誰かが差し出す、あの手は……。 
 右手でしょうか? 左手でしょうか?


肯定
 そんな疑問符にとり憑かれたら。
 わからなくなってしまうね。

 そして、これが答えなんだろうね。
 
 僕が思っていたほど。
 上下左右前後は。
 絶対的なものではなかった。

 目の前のガクちゃんやあの鏡。
 何かと向かい合った瞬間に崩れてしまう。

 もし、それが絶対的なものなら。
 どんな場所でも、どういう姿勢でも、誰にとっても。
 上下左右前後は、上下左右前後。

 だけど、違った。


テツガクちゃん
 違ったようですね。

 きっと、普段は意識していないこと。
 それは、本当は存在しない幻で。
 私達は、それを忘れている。

 向かい合った、今、この瞬間。
 存在する、わからないこと。
 それを消し去るために。

 とりあえず、いい加減に。
 作り出した、幻の名で呼んでいる。
 上下左右前後、と。

 そんな『存在と同時に存在しない』。
 忘れていた、不可思議な今、この瞬間を。
 映し出して、思い出させてくれる。

 それが、あの鏡なのかもしれません。
 向かい合えば。
 普段、意識もしない何かが。
 違和感という幻として映る。

 本当は、在りはしない幻。
 忘れてしまった、それを。
 映し出すのが鏡だとしたら。
 あの鏡に映らない、幽霊の正体こそ……。

 あなたはあの鏡に。
 どんな幻を覗くのでしょうか?




それでは、また次の機会にお会いしましょう。












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穏やかな青さに身を任せるな

  穏やかな青さに身を任せるな。  諦めた夢を燃やせ。  のさばる星屑に怒りをたぎらせろ。  いかれ、いかれ、奪い取る星に。  飛べ、飛べ、白い影に。