新しい名前を得た

　懐かしい人に手土産を届けた時。

　私は新しい名前を得た。
　その人は私に気づかなかった。
　名乗っても、隣の家の人だと思われた。
　怒って然るべき事かもしれない。
　だけど、私は笑った。
　私は――新しい名前を得た、ランドール・スティーブンス氏。





テツガクちゃん
　新しい名前を得ましたね。
　私の吸血鬼のホームズさん。

　最高の名前を。


肯定
　ランドール・スティーブンス。
　いい名前だ。

　僕が懐かしい人に。
　手土産を届けた時だった。

　その家の人は私に気づかなかった。
　名乗っても、隣の家の人だと思われた。

　怒って然るべき事だったかもしれない。
　だけど、僕は笑った。
　今でもマジで笑える話。

　なぜなら――。


テツガクちゃん
　ショーシャンクの空を仰いでしまったから。

　遂に脱獄王と同じ名前を得た。
　私の吸血鬼のホームズさん。

　名前というのは厄介なものです。

　一番馬のファット・アス。
　ラッキーナンバー、38466。
　そういう名があれば。
　看守に撲殺されてしまいますが――。

　翌朝には違う名前に目覚める。
　その朝が――。


肯定
　おずおずと迫っている。

　悪夢から抜け出せる。
　そういう新しい名前。
　ランドール・スティーブンス氏。

　書類上にしか存在しないはずの名前。
　それに足と影と重さが宿った。

　それが僕なのか。
　ガクちゃんなのか。
　まだわからないけど。

　一つ言えるのは。
　僕は新しい名前を得た。
　浦島太郎になりつつあるが構わない。

　ジワタネホの気配を感じる。
　新しいガラスの靴が。
　懐かしい未知の上を歩かせる。

　黄金に輝く小麦畑。
　その向こう側が伝わる。

　アンディ・デュフレーンは死んだよ。
　彼は頑張って死んで、抜け出したんだ。
　それで、ランドール・スティーブンス氏が。
　友達を仮釈放にした。

　不思議と。
　彼はこの世に流れる金の川に詳しかったし。
　そこに舟を出すだけの財力もあった。
　そして、舟を出す理由、約束もあった。

　樫の木の下の黒曜石。
　その下にある血の誓いが。
　浮かぶ時間――。

　ありがとう、日出ずる世界のホラー帝王さん。
　異世界から郵便で事を済ます魔法使い。

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それでは、また次の機会にお会いしましょう。